大学病院の救急医ブログ

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非接触型体温計

7月14日支援保健師新型コロナウイルスPCR検査陽性は、避難者や地元住民のみならず外部からの支援者にも大きな影響を与えた。

巨大災害支援団体が一時休止を決めた。他道府県でも派遣中止を決めたところもあった。

 

COVID19感染者を診療しているはずの病院関係者。適切な感染防御を行っていれば感染リスクかなり下げることができることを知っていて、日ごろからそれを実践、診療している病院の上層部がどういう理論でそのような決定をしているのか全く理解できなかった。

支援に入っていた保健師PCR陽性となったとはいえ、無症状で、経過から言って派遣前にすでに感染していた思われる状況で、被災地で災害医療を行うことがリスクの高いことだとは全く考えられない。どこの地域でも症状を持った人がやってくる救急外来の診療の方がよっぽどリスクが高いはずだ。

 

現場から多く離れた場所にいる指揮官が「とりあえず安全のために」撤退を指示する。よくある話だ。

 

そんな中。ロジリーダーの川田さんが耳打ちしてきた「先生、支援チームの一人が39.6℃。無症状です。その彼はかかわっていないけど、派遣元の病院ではCOVID19患者を診療しているらしいです。どうしますか?」

 

「まずは、帰ってもらおう、その後の症状次第で、地元でPCRを受けてもらおう」

ここでPCRを行うには被災地の負担が大きいと判断した。

「他のメンバーはどうしますか?活動続けてもいいですか?」

派遣控えで支援チームが減っている状況でさらに減るのは厳しい…。とはいえ、もし感染していたら被災地内での感染を広げる可能性がある。

「全員帰ってもらって、自宅待機してもらうのがいいかな。県庁に報告して指示を仰ごう」

 

急ぎ盾保健所長に報告した。情報はすぐに共有する方がいい。

「医療チームに39.6℃の発熱者が出ました」

盾保健所長は、表情を曇らせ、

「あら…。どうしよう…」

そこに川田さんが走ってきた

「先生、誤報でした。36.8℃でした」

接触型体温計は誤差が大きいようだ

腋窩で測り直したら、なんかやっても36℃台でした。なんも症状がないのでおかしいと思ったんですよ」

 

力が抜けた私と盾保健所長は笑うしかなかった。

 

避難者のPCR結果が全員陰性と判明すると、少し支援チームが戻ってきた。それでもこれまでの災害に比べると非常に少ない。特に被災地にとって痛手だったのは、熊本県が「ボランティアは県内在住者に限る」と方針を打ち出したこともあり、泥かきや片付けを手伝ってくれるボランティアは非常に少ないことだった。