大学病院の救急医ブログ

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支援者が新型コロナウイルスPCR陽性

毎日、保健所が主催し16時30分から市町村の保健師、医師会、医療機関、支援団体など関係機関を集めた会議が行われていた

7月13日夕方その会議が中止と連絡が来た。

その後、盾保健所長から極秘の相談があると言われた。

「7月12日まで支援に来てくれていた他県の保健師が帰ってからのPCR検査で陽性という結果が出たと連絡が入った。この後、県庁で記者発表が行われる予定だ。その保健師は発熱無しの無症状、行動を共にした他の職員はPCR陰性、その保健師PCRの陽性反応もごくわずかに出ただけのようだ(つまり感染しているとしてもウイルス量は少ないし感染力は非常に少ない)」

「どのような対応をするか県と相談中だが、避難所の一斉PCRをする場合には、DMATも協力してくれますか?」

忙しく保健所職員に指示を出しながら、ひそひそ話のように聞いてきた。

私は二つ返事で

「いいですよ。やりますよ」と答えた。

普段、病院でPCR検査の検体採取を行っているDMAT隊員は多数いるはずだし、検体採取は感染防御具(Personal Protective Equipment : PPE)をしっかり身に着けて行うので危険はない。ダイヤモンドプリンセス号で感染者対応を行ってきた実績もある。DMATが新型コロナウイルスPCR検査ができない理由はどこにも見当たらない。

なにより、この被災地内の保健所が困っているときに「できません」と言ったら何のために被災地支援に来ているのか分からなくなってしまう。

 

その後、熊本県から発表があった

https://news.yahoo.co.jp/articles/405091a60bab9683298fa474482612188733af21

 

そして、2つの避難所の消毒と避難者のPCRをその日のうちに行う方針が決まった。

 

 

通常、新型コロナウイルスの検査は患者または無症状病原体保有者の濃厚接触者に行われる。

2020年5月29日に国立感染症研究所がだした新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html

 

以下一部抜粋

  • 「患者(確定例)の感染可能期間」とは、発熱及び咳・呼吸困難などの急性の呼吸器症状を含めた新型コロナウイルス感染症を疑う症状(以下参照を呈した2日前から入院、自宅や施設等待機開始までの間、とする。

*発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など

  • 「無症状病原体保有者の感染可能期間」とは、陽性確定に係る検体採取日の2 日前から入院、自宅や施設等待機開始までの間、とする。
  • 「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ。)の感染可能期間に接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。

・ 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者

・ 適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者

・ 患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者

・ その他: 手で触れることの出来る距離(目安として 1 メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

 

今回のケースでは、

陽性者は終始マスクをしていたし、避難者や避難所の関係者と長時間、密接な状況にいたとは考えにくいとされた。

つまり、濃厚接触者は「長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった」同行していた派遣チームのみで、しかもすでにPCR陰性が確認されており、避難所内で濃厚接触者はなし、感染が起きる可能性はほぼないだろうと考えられた。

 

それでも熊本県はその日のうちに避難者の全例PCRを行う方針とした。それは、避難者に正確な情報を伝えるとともに不安を取り除き、被災地内外でおきるであろう無用な混乱を避けるためには必要なことであった。

 

その方針決定後、県庁にある医療調整本部と調整をおこない、派遣元当道府県、派遣元病院の承諾を得たうえでPCR検査に協力することなった。

保健所支援チームの長崎県DHEATは、ちょうどその日がチーム交代引継ぎの日であった。その日帰るはずだった保健所長藤川先生は残ってくれた。藤川先生は西日本豪雨でも一緒に災害支援を行ったことがあり、その後の研修会でも何度かご一緒した。元外科医で男気溢れる女性の先生だ。

 

人吉保健所職員、熊本県からの応援職員、長崎県DHEAT、日赤災害コーディネートチーム(熊本赤十字病院)、DMATロジスティクスチームが2つの避難所に分かれて消毒とPCR検査を行った。

21時頃避難所の到着、盾先生が避難者に経緯と方針を伝え、検査が始まったのは22時近かったと思う。マスコミが来ていて写真を撮っていた。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/626010/

 

 

検査が終わって、全員が本部に帰ってきたのは24時を過ぎていた。保健所の職員の方々は後片付けをやっていたが、我々は1時頃一足先にそれぞれのホテルにむけて帰路についた。