大学病院の救急医ブログ

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目標を持つことの意義

子供の部活動の会報に書いたことを転載します。

 

 新型コロナウイルス感染大流行により令和2年度は全ての大会が中止となり3年生は引退しました。新チームになっても今後の大会が開催されるかどうかは不透明です。この状況は選手の皆さんへの影響は計り知れないですが、全国の運動部が同じ経験をしていますし、アスリートに限らず、社会全体が、そして日本に限らず、世界中の人々が影響を受けています。これを読んでいる皆様も大変なご苦労をされているのではなかと思います。

そんな中で大変僭越ではありますが、ややもすると目標を見失うかもしれない選手の皆さんに「目標を持つ」ことのメリットについて書かせていただきます。

多くの人がどこかで「目標を持ちなさい」と言われたことがあると思います。ところが、人生の「目標」などと言われても全く思い浮かばす、「目標」がない自分に罪悪感を持ったことがある人もいるかもしれません。一方では「目標」なんかいらない「今を精一杯生きてい行けばいいんだ」という人もいます。私はこの考え方の相違の原因は「目標」の定義にあると思います。

自衛隊の友人から教わったことですが、作戦を立てるときには「目的」「戦略」「目標」「作戦」の順に考えていくのだそうです。ここでいう「目的」は最終的な到達点のことで概念的、抽象的で英語には「goal」、「purpose」が該当します。「目標」は具体的で数値化でき「目的」に到達するまでの過程での目印となるものとすると考えやすく、英語では「aim」、「target」が該当します。つまり「人生の(大きな)目標」とは「人生の目的」と言い換え可能で、これを明確にするのは高校生では非常に難しいと思います。一方、ほとんどの人は日々の暮らしの中で沢山の「小さな目標」を持って生活していると思います。例えば「次の試験で満点をとる」とか「次の試合で20点とる」とか。その「目標」を達成するために「毎日5時間勉強する」「毎日シューティングを500本する」等の作戦を立てるはずです。そしてその先には「○○大学合格」「○○大会優勝」という次の目標があって、毎日の学校生活のモチベーション(動機づけ)になっているはずです。ひょっとするとしだいに、例えば「高校大学で得た知識で社会貢献する」という人生の「目的」(大きな目標)が見えてくるかもしれません。目標が明確な人はそうでない人と比べ成果を上げる確率が高いことが示されており、その理由は、目標到達のために努力しようとし、分岐点に立った時には目標に適した判断や正しい判断を下しやすいためとされています。人生の「目的」を明確にすることは難しいけれども、「目標」を持つことは誰にでもできるし人生の役に立つことは間違いないようです。

選手の皆さんにとっては、来年も目標とする大会が無いかもしれません。そういったことも想定に入れたうえで「ちいさな目標」を決め、それを達成するための「作戦」を考え、「目標」が達成できない時は違う作戦を行う。「目標」が達成されたらみんなで喜び次の目標をきめる。人が幸せを感じるかどうかは目標を達成できたかどうかによって決まるという研究結果があるようです。付け足すと、もう一つのコツは「達成困難な目標をたてない」ことです。非現実的な目標を立てても幸せにはなれません。

来年、選手の皆さんが満足して新チームへの引きつぎができるかどうかは、「目標」設定にかかっていると思います。さらに、目標を持つことが習慣となれば豊かな人生が待っていることは間違いありません。

 

参考文献