大学病院の救急医ブログ

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救急外来での「めまい」

めまいは救急外来でよく遭遇する症状です、多くの研修医が苦手意識を持っているのではないでしょうか。その原因は「まめい」という訴えの曖昧さと「めまい」の原因疾患が多岐にわたり、時には生命にかかわることが原因である場合もありうることによると思います。

「めまい」を訴えてくる患者さんには下記のように沢山の症状が考えられます。Vertigo:いわゆる回転性めまい、Dizziness:いわゆる浮動性めまい、presyncope・faintness:前失神、立ちくらみ、倒れそうな感じ、Disequilibrium:平衡障害、足元がふらつく、体がふらふらする、Nonspecific dizziness:非特異的めまい、頭がふらふらする(lightheaded)、ただたんにめまいがする。

めまいの原因も多岐にわたり、Up To Dateを参考にすると「dizziness  めまい」の原因は、大まかに言って下記のような頻度のようです

  1. 40% 耳性/前庭性   
  2. 10% 中枢神経系   
  3. 10% 前失神  
  4. 10%  精神的
  5. 15%  その他平衡障害(パーキンソン、筋骨格障害、末梢神経障害など)
  6. 10%  原因不明    

上記を踏まえて、重篤となりうる病態を見逃さないように鑑別診断を行っていく必要があります。私は救急外来で「めまい」を訴える患者さんへのアプローチは次の順番で行うのがいいのではないかと考えており、実際に行っています。

    1. 前失神かどうか?
    2. 中枢性めまいかどうか?
    3. BPPVかどうか?
    4. BPPV以外の末梢前庭障害かどうか?
    5. その他の原因(高齢者のふらつき、歩行障害など)は考えられるか?
    6. 上記にあたらない場合は、原因不明(心因性含む)

 

 

 

救急外来で、「めまいを訴えてきた患者を眼振もなく、神経学的兆候もなく、頭部CTで異常がなく帰宅させたら数時間後に吐血して救急搬送された」などという話を聞くことがあります。このpitholeに陥らないために1.は重要です。

問診と身体所見から1.を考えます。「倒れそうな感じ」や「気が遠くなりそうな感じ」という訴え、バイタルサインの異常、顔色がわるい、汗をかいているなどは前失神を疑う所見です。特に消化管出血による起立性低血圧を見逃さないようにします。

もし、前失神が疑われた場合は失神の鑑別診断を行います。前失神が否定的な場合は2.に移ります。

2.中枢性めまいか否かを診断する場合には、同時に末梢前庭障害によるめまいかどうかを判定するこおとにもないります。

まずは、意識レベル、麻痺、瞳孔所見から大まかに中枢神経障害を判定し、そこで異常がなければ、NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)、起立、歩行をさせて体幹失調 歩行障害、起立障害の有無を判定します。Wallenberg症候群(延髄外側症候群)の症状がないか判定します。すべてに異常がなければ中枢性めまいである確率は非常に低いと考えます。何らかの症状があった場合や頭部CTやMRIを行います。

中枢性めまいと末梢前庭性めまいの鑑別にHead impulse testが有名ですが、感度は約30%、特異度は約90%程度なので、これのみで鑑別診断を行うことはできません。

もし、臨床的にBPPV(Benign paroxysmal positional vertigo)であることが診断できた場合は中枢性めまいは否定出来て頭部CTやMRIは不要です。

 

 

3.BPPVかどうか以降に関しては次回述べます。