呼吸の評価と酸素療法
研修医向け講義の第2弾です。
呼吸の評価と酸素療法の実際についてスライドを提示します。
呼吸数は非常に重要なバイタルサインですが、日本の病院でも、日本以外の病院でも記録されず呼吸数の重要性が認知されていないようです。スライドでは2008年のオーストラリアの論文を提示していますが、昨年出た論文でも状況は変わっていないようです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18513176
Respiratory rate: the neglected vital sign.
呼吸数は大事ですよ。
また、最近は不必要な酸素投与は、死亡率をあげたりその他の臨床成績を悪くするという論文が多数でてきており、「酸素投与を行ってSpO2 100%で管理してはいけない」ということが常識になりつつあります。
British Thoracic Societyのガイドラインでは、要約すると以下が推奨されています。
「多くの急性期患者にはSaO2 94%~98%を達成するように酸素を投与する。高CO2呼吸不全のリスクのある患者では,酸素はSaO2 88~92%を達成するよう投与する」
2020年1月のNEJM論文では、ICUで人工呼吸療法を受けた患者は、「SpO2 91%~上限なし」と「SpO2 91~96%に制限」した患者で生存率や人工呼吸療法の時間が変わらなかったと報告されています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1903297
Conservative Oxygen Therapy during Mechanical Ventilation in the ICU
BTSのガイドラインでは94~98%にはしっかりとした根拠はなく、90%でも問題ないが安全域として4%を上乗せして94%~98%としていると書いてありました。
日々の臨床ではNEJMの論文のようにSpO2 91~96%の管理でも何ら問題ないように思います。酸素投与によりデメリットが少なくなる分、可能な限り不要な酸素投与は行わない原則とすることが患者の利益につながりそうです。
酸素投与には人工呼吸器以外に鼻カニューラ、単純マスク、リザーバー付きマスク、交流量酸素療法があります。それぞれの使い方を示しました。SpO2が90%台前半でよいのであればほとんどが鼻カニューレで事足りますし、40%以上の酸素濃度が必要な時は交流量酸素療法を行います。救急や急変で呼吸状態が悪い方にはリザーバー付き酸素マスクを使用します。最近は、単純マスクを使うことはほとんどありません。