プライマリーケア集中セミナー「ショックと輸液」
先日、指導医が持ち回りで行っているプライマリーケア集中セミナーで話をしました。
「早期にショックを認知して、酸素を投与して、輸液を開始して、必要ならノルアドレナリンを開始する」という本当の初期対応の話です。
もう一つのポイントは「輸液製剤の組成を理解して使用しよう」ということです。
1年目の後半にローテーションしてくる研修医に「ラクテックのNa濃度は?」とか「K濃度は?」とか「ブドウ糖濃度は?」と聞いてもほとんどの研修医が答えられません(ラクテックにブドウ糖は含まれていません)。そんなんでよく輸液指示を出してきたなと思います。これは基本中の基本なので必ず理解してもらいたいと思っています。
また、「乳酸アシドーシスに乳酸リンゲル液を投与してもいいんですか?」という質問を受けます。乳酸リンゲル液中の乳酸ナトリウムは体内で乳酸とNaとHCO3-に代謝されるようでHCO3-がアシドーシスを改善するので投与してもよいというのが答えです。
輸液に関して調べてみると、「リンゲル液」と「乳酸リンゲル液」は別物であることが分かります。
「リンゲル液」は英国のSydney Ringer 先生(1835-1910)が心臓の灌流実験に使用するために作り出したもので、https://en.wikipedia.org/wiki/Sydney_Ringer
その組成は以下のようなものでした。
Na+ 147mEq/L
K+ 4mEq/L
Ca2+ 4.5mEq/L
Cl- 155.5mEq/L
現在の「乳酸リンゲル液」は米国の小児科医Alexis Frank Hartmann 先生(1898-1964)が、小児の下痢や脱水によるアシドーシスの治療のために「リンゲル液」に乳酸ナトリウムを加え改良した作成されました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Alexis_Hartmann
その組成は現在の以下のようになっています。
Na+ 130mEq/L
K+ 4mEq/L
Ca2+ 3mEq/L
Cl- 110mEq/L
lactate- 28mEq/L
彼は「ハルトマン液」という名称を使っていましたが、なぜかその名前は普及せず「乳酸リンゲル液Lactated Ringer's Solution」という名称が全世界的に普及しました。そこらへんのことは、こちらのブログに書いてありました。
http://ringer.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_15d8.html
今、日本ではハルトマンという輸液製剤が売られています。
日本では、乳酸リンゲル液以外にも酢酸リンゲル液や重炭酸リンゲル液が発売され使用可能です。比較試験がないのでその優劣はわかりませんが、臨床効果には大きな差がないと考えています。そのため、ERでもICUでも乳酸リンゲル液を使用しています。
ただし、ICUでの代謝性アシドーシスに関しての治療という観点から考えると乳酸リンゲル液よりも重炭酸リンゲル液のほうがHCO3-が上昇しやすい印象を持っています。